直木賞作家 朝井リョウ氏による作家となって10周年を記念して作成された作品です。
タイトルからも想像されるように、性的マイノリティを扱った作品です。
2023年に映画化もされたこの作品をご存知の方もおられると思います。
LGBTQと呼ばれる性的マイノリティへの理解が叫ばれる今、その”多様性を認めよう”とのスローガンが虚しく感じるほど この作品は救いのない哀しさに溢れています。
500ページにも及ぶこの本をご紹介します。
彼は呟きます。
「生まれ持った自分らしさに対して堂々としていたいなんて、これっぽっちも思っていないんです。」
「私は私がきちんと気持ち悪い。」
あまりに、想像を絶するほど理解し難い性的指向の自分を、世に受け入れてほしいとは思っていない。
それほど、もうどうしようもなく自分の人生に絶望しきっています。
そんな人生で彼の唯一の希望はYouTubeの配信動画を見ること。
そこには自分の性的欲求を満たしてくれる動画が、少ないながら存在している。
そのコメント欄に寄せられる配信者へのリクエストは、単なる再生回数を伸ばすためのアドバイスにしか見えない。
しかし
配信者の意図と全く違う楽しみ方を望んでいる視聴者が存在する。
同じ性的指向の者だけが分かりえるリクエスト。
そのリクエストを通して、かすかにつながる同類者。
消えてしまいそうな繋がりを手繰り寄せるように
異星人のように生きる自分につながる糸を、はからずも手繰り寄せていく。
人生に絶望し、生きることを諦めかけた
諦めるしかない人々に、手を差し伸べることはできない。
救いようがない。
そのことをよく理解している彼は、自分を受け入れてほしいと望むこともなく
とっくに諦め絶望している。
自分と違う存在を認めよう。
他人と違う自分でも胸を張ろう。
自分らしさに対して堂々としていよう。
生まれ持ったものでジャッジされるなんておかしい。
「清々しいほどのおめでたさでキラキラしている言葉です」
彼は呟きます。なぜなら、これらは結局
「マイノリティの中のマジョリティにしか当てはまらない言葉であり、
話者が想像しうる”自分と違う”にしか向けられていない言葉だから」
実態がわかったところで
他者がどうすることもできない
直視できないほど嫌悪感を抱き
距離を置きたいと感じる
そんな自分であることを十分思い知っているのに
生きていかざるを得ない
傍観するしかないマジョリティにとってこの作品は
あまりに衝撃的で
この本を読む前の自分には
もう 戻れないのです。
朝井リョウ 作 正欲
ご一読ください。
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